ピアノという楽器はすごくて、恐ろしい
── 最近、ダンス☆マンはJ-WAVEの人気番組「GROOVE LINE」で最新J-POPをクラシックディスコ風にカヴァーしています。あれ、これまでの洋楽カヴァーとは違った面白さがありますね。
<夜に駆ける>など、いろんな曲をカヴァーしてますけれど、あれをやると発見があるんです。最近では、ひらめさんの<ポケットからキュンです!>をニュージャックスイング風にするという、なかなか大胆なアレンジに挑戦しました。原曲をパッと聴くと今風のフォークソングなんですけれど、そこにリズムやベースを乗せてダンサブルにしていくと、原曲の言葉の乗せ方が実はヒップホップなんだなってことに気づくんです。だからすごく乗りやすくて、ディスコミュージックにアレンジしても全然違和感がない。つまり今の若い世代って、身体の中にそういうグルーヴが入ってるんですね。新しい世代の音楽だからといって、それ以前とすっぱり別れているわけではなくて、むしろ若い世代は自然にファンクやダンスのリズムを備えている。音楽の歴史ってのはしっかり積み上がってきているんですね。面白いですよ。
── さて、最後に自身の曲、他者への楽曲、アレンジ提供などを含め、多くの楽曲に関わってきたダンス☆マンにとって、ピアノっていう楽器はどういう位置にあるのかってことについて聞きたいのですが。
「本来、ピアノってそうじゃないよ」って言われるかもしれないんですが、私の場合、すごく強いタッチで弾く、ドラムやエレキギターに負けないっていうのかな、力強さを求めますね。ゴスペルやファンクなんかを聞いてもらうと分かるんですけど、まるで打楽器のように弾いている。私の担当であるベースも同じで、音符を忠実に綺麗に弾くというより、ラリー・グラハムやルイス・ジョンソンのようにべチってコンプレッサーがかかった潰れたような音で弾きたい。ドラムなんかもマイクがドスって音を拾いきれずにビチャって潰れている。そんな音がかっこいいと思ってるし、そこに近づけたいって思っちゃうんですね。だからピアノでも細かいことをやる時も「タッチは強く」ってことを求めます。これって一見ラフなようで、ピアニストには難しい要求なんですけどね。
── シンセサイザーなどとの使い分けはどう考えているんでしょう?
カヴァー曲をやる場合、原曲がアコースティックピアノならば、それに忠実にアコピを使いたいって思います。たとえばシックの<Good Times>のオープニングのブーンっていう音、あれアコピなんですよ。シンセでできなくもないんだけど、私の耳の育ち方が、アコースティックピアノの音はアコピの音としてインプットされちゃってるので、それをアウトプットするときには「やっぱりシンセじゃないよね」ってなっちゃいます。もちろん逆にシンセじゃなくちゃいけないってこともあるわけで、ゴールしたいアレンジのイメージ、世界観によって楽器編成は変わるってことかな。
── 今回、このインタビューに際して初めてヤマハの<リニューアルピアノ®︎>を弾いていただいたわけですけれど、率直な感想はいかがでししたか。
弾いた感じは中古っていうイメージではないですよね。私自身、元々アコースティックピアノで育った、生楽器の影響をがっつり受けた世代ですから。やっぱりこの音の出方には気持ちが上がるというか、ヘッドフォンから聞こえる音と、バーンって周りの空気を振動させて入ってくる音って全然違うじゃないですか。ピアノでいうとハンマーが弦を叩いて空気を振動させて、自分の身体に伝わってくる心地良さ。これは生楽器じゃないと分からない、感じられない世界ですね。
たとえがあっているか分からないんですけれど、私、旧車が好きで、古いアメ車のシボレーに乗っていたんです。シボレーの旧車を専門に扱う正規ディーラーで購入して。正直、安く買おうと思えば他にもあったんですよ、でもそういう、しっかりきちんとレストアしたものを販売する所で買ったことで、10年間なんの問題もなく乗れた。実際、旧車って「工場にいることの方がうちの駐車場にいるより多いんだよね」って話が良くあるわけです。ピアノの世界でこういう<リニューアルピアノ®︎>ってものがあるのを、正直知らなかったんですが、ヤマハっていう日本を代表する楽器メーカーが、自ら体制をつくってやっているのが素晴らしいですよね。楽器、特にピアノは一回購入すると長い付き合いになるもの。だから信頼、安心って大事だし、きちんと整備されているからこそ、長く付き合えるんでしょうから。
ただこうやってあらためてアコースティックピアノに真正面から向き合うと、ピアノってつくづく恐ろしい楽器だってことに気づきますね。
── 恐ろしい?
いろいろ楽器はあるけれど、ピアノってリズムができて、ベースできて、メロディ弾けて、コードも弾ける。それでいてシンセみたいに鍵盤を重ねるなんて卑怯な真似しないでしょ(笑)。ピアノってひとつの楽器でそういうことが全部できちゃうわけで、すごいというか、ある意味恐ろしい楽器だなと。
── 今、ダンス☆マンはNHKの番組で、世界のいろんな楽器に触れていますけれど、その視点から見ても「アコースティックピアノはすごい、恐ろしい楽器だ」と(笑)。
「ニャンちゅう!宇宙!放送チュー!」っていう Eテレの番組ですね。コンセプトが宇宙人に向けて地球を紹介するということで、ミラーボール星から地球に来た私に、非常に適した番組なんですね。ここで音楽を担当する他、世界中の珍しい楽器、いろんな民族楽器などを初見で渡されてダンス☆マンが演奏の仕方を探るってコーナーがあるんです。そんな立場から見ても、この地球にあるアコースティックピアノってのは羨ましい楽器ですよ。
余談ですけど、この番組のおかげで、最近はお子さんのファンも増えまして。ライブ後にある女の子と握手したら「キャ~!手洗わない」なんて言ってくれるんです。今はこんなご時世ですから「だめ、絶対に手洗いなさい!」って注意しなくちゃいけませんけれど(笑)。
ダンス☆マン
シンガー、ベーシスト、作詞・作曲・編曲家
ミラーボール星出身。70~80年代のダンス・クラシックスの名曲の素晴らしさを伝えるためアーティスト活動を開始。原曲の“ノリ”を損なわないよう、英語詞の語感を大切にしながらオリジナルの日本語詞をつけて歌う。 1998年3月18日「背の高いヤツはジャマ」でエイベックスよりデビュー。自身の楽曲のほか、モーニング娘。の大ヒット曲「LOVEマシーン」他、数多くのアレンジを担当。第42回日本レコード大賞では編曲賞を受賞する。作曲においても、郷ひろみの「なかったコトにして」、はっぱ隊の「YATTA!」、アニメ「ケロロ軍曹」のエンディングテーマ曲「アフロ軍曹」などのヒット曲を輩出。「ニャンちゅう!宇宙!放送チュー!」(NHK Eテレ)の全ての音楽を担当。本人も番組に出演し、子供たちから注目を集める。
ダンス☆マン公式ページ
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