私とピアノ

PART3

そして今、あらためて
ピアノソロにこだわる理由

谷川公子(ピアニスト/作曲家/プロデューサー)

 

私とピアノ

PART3

そして今、あらためて
ピアノソロにこだわる理由

谷川公子(ピアニスト/作曲家/プロデューサー)

渡辺香津美氏との出会い

── 漫然とカバーを演るのではなく、自身の世界観を入れることで道を拓く。それは1stアルバム<AIRE>にも共通していませんか? 耳なじみのいいカバー曲などに逃げることをせず、あくまでも谷川さんが旅で感じた心象風景を綴ったオリジナル曲にこだわったという点で。

むしろ初めから目指していたのはそこですから、とても良い形でアルバムに出来たと思います。<AIRE>に参加して下さった方をはじめ、表現した世界観に共感してくれるミュージシャンやビジュアルアーティスト、パフォーマーなどとも出会いが広がり、即興ピアノ+映像+ボイスパフォーマンスといった、いろいろな要素を融合したパフォーミングアートができるようになったりしましたから。香津美さん(=夫であるギタリストの渡辺香津美氏)に出会ったのもこのアルバムがきっかけですしね。

── 最初の出会いはどこで?

友人の作曲家でバイオリニストの斎藤ネコさんがネコカルと称するハイパー弦楽四重奏団を率いて行っているライブシリーズの中で、何人かのギタリストに委嘱した楽曲をお披露目する面白いライブがあるとのことで聴きに行ったんです。そのギタリストの一人が香津美さんだったの。前に申し上げたように音楽に関しては純粋培養だった私は、正直、渡辺香津美という存在をよく知らなかった。打ち上げの席で香津美さんに名刺がわりに<AIRE>を渡して、しばらくして香津美さんからアルバムを気に入った・・という事が書かれたお手紙をいただわけです。そんな流れから「お稽古しましょう」となって。その頃、私は美術館でヴィジュアル・アーティストとコラボレーションをやっていて、パーカッションのヤヒロトモヒロさんと私のDUOに映像をからめたイベントがあると知った香津美さんが、「観に行きます」と。このライブはピアノとパーカッションのインプロビゼーション(即興演奏)に映像がシンクロすることで世界をつくりあげて行くというもの。のぞきに来るだけと思っていた香津美さんは、なぜかギターにアンプを持ってローディーまで連れてきていて、まさに乱入体制な訳です(笑)1時間×3本勝負!でしたので、最初のステージはおとなしく観ていてくれて、2本目から加わってまずは環境に馴染むまで繊細なアプローチ、ところが3ステージ目には「イェーイ」という感じですっかりライブハウス乗りになっちゃいました(笑)。当然、映像は置いてけぼり。
 

美術館での映像と即興演奏コラボ

── その後、香津美さん、尺八の中村明一さん、パーカッションの海沼正利さんと共に<AIRE Super Unit(アイレ・スーパー・ユニット)>を結成されますね。

もともと私のプロジェクトは<AIRE>としてアルバムにも参加して下さったチェリストの溝口肇さんや、ベースの吉野弘志さん、を中心にライブやコンサートを行っていて、時々にいろいろなゲスト・ミュージシャンの参加で切磋琢磨してました。尺八の中村明一さんは特に、私の音楽の良き理解者でもありました。ある時を境に、そんなライブにも香津美さんが乱入するようになって、もうこれは本腰を入れてみようとなりました。一緒に演るとわかるんですけど、香津美さんの本番での瞬発力ってすごいのね。並みじゃない。彼はジャズで培ってきた即興性で切り込んで来る、それに対して私は「そうじゃないもの」で色彩を創りたい、とある種の反発をする。そのやりとりから生まれる音楽のフレームづくりというのが新たな課題となりました。中村さんを交えたアイレ・スーパー・ユニットは西洋音楽と邦楽、民族と楽器の特性を踏まえて、楽曲もインプロビゼーションも<間と氣>の融合とぶつかり合いから生まれる新しい世界を探求していました。これも面白かったし、2人の超絶技巧プレーヤーの間にいた私はとても鍛えられました。ああいう刺激はライブステージの高揚感と緊張感の中から生まれるものですね。
 

── この頃のピアノはまだC3ですか?

そう。これらの創作と活動を支えたのはC3です。数年経って、実家から、C3グランドピアノと一緒に、再び都心のマンションで、今度はパートナーとの職住一体のソーホーライフが始まることになりました。しばらく暮らして一つ問題が。多忙なギタリスト渡辺香津美との暮らしの中で、互いの練習や創作活動において音を出す空間をシェアする難しさです。そんな時期に香津美さんがヤマハのサイレントギターのキャラクターをやらせていただくことになりました。「わぉ、サイレントという選択肢があるわけね」という展開になり、サイレントグランドピアノC5-SGを購入することになったんです。
 

’95 AIRE SUPER UNIT ライブより

 

’95 AIRE SUPER UNIT ライブより

 
 
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